三猿金泉秘録

何か一つがおかしくて、投資がうまくいかないとき、メンタルの問題だったりします。そんな時に、これを読んで自分を整えます。昔の人の文章なので、著作権等に問題ないと思い、掲載します。

 

序文

太極動き二陽を生じ、動くこと極まりて静なり。

静にして陰を生ず。静なること極まり又動く。

一動一静、皆天地陰陽の廻るが如く強気の理を含む、弱気の功あらはれて、はなは万人の気弱き時は、米上がるべきの理なり。

諸人気強き時は、米下がるべきの種なり、是みな天性理外の理なり。

予荘年の頃より米商に心を寄せ、昼夜工夫をめぐらし、六十年来月日をおくりて、漸く米強弱の悟を聞きて米商の定法をたてて一巻の秘書を作り、名づけて三猿金泉録という。

米穀の形象は中まるく上下尖る。まるは陽、尖りは陰なり。天地陰陽の気と士農工商を養う第一の宝なり。

三猿とは見猿、言猿、聞猿の三なり。

眼に強変を見て、心に強変の淵に沈むことなかれ、只心に売を含むべし。

耳に弱変を聞きて心に弱変の淵に沈むことなかれ、只心に買いを含むべし。

強変を見聞くとも、人に語ることなかれ、言へば人の心を迷はす。是三猿の秘密なり。                                     

相場の高下は、売買により高下するといえども、これを試すは人力の及ぶところにあらず、天然自然の道理ならざるはなし

故に大富なる人、金銀の力をもって買占め、あるいは売り叩くとも、いったんその米の高下ある様に見ゆるといえども終始にその効ある事なし。

全国中の人気集まりて試す高下なれば一人の力を以て試すとも、仮令いか程の金満家として高下は自由にならざる道理を弁ふべし。

商い始まれば、米商人多人数集まり,石数と値段を指先にて始め、数万石の商いをなし、いかほど高下あるとも一石一銭も違うことなく、又邪を言う人もなく、誠に産業中、正直の商是に勝りたる事なし。

仮令善意の人立交わりたるとも商いに偽りを以て、立身出世のならざる理を知るによって、自然と邪を言う者なく正直が風習とはなりたり。

諸万物の値段は、米価を先とし、位を定むるものなれば、米商いに従事なす人は正直を先とし、謀る所邪心を捨てて相場に贔屓をつけず、掛引きの法を以て溜めさざれば大攻を得ることなし。

極意に曰く「高安の理は空理にて眼に見えず、かげも形もなき物が体」上の句の心を考ふるに法をもて上るとか、いつ下がるとも定らざるが空理なり。

空理と見れば千年に一度も売り買する時節はなし。

下の句の心を考ふるに、かげも形も無き物が体とあり。体あれば定式あり、定式あれば売買あり。

仏道の定式は五戒、儒道の定式は五常神道の定式は智仁勇の三猿、みなそれぞれに定めあり。高安の定式、古米多く安き値段を新米へうつしたる歳は、空腹下がりある年なり。

是を順乗の年といふ。古米少なくして高き値段を新米へうつしうる歳は、空腹下りのある歳なり。

六、七、八月に変出ずれば、まさしく空腹下がりの歳なり、是を変乗の歳といふ。

売買の定式は逆平、順乗のふたつなり。逆平にて平買にこれを買ふ。順乗とは、上る道理を正しく見つけ、乗買に買ふを順乗といふなり。

乗変乗、難平商内、家伝高安鑑、三十八乗商内、十五禁制、万暦運気、豊凶、諺等、
これを考ふる時は、千度に千度負けざるの妙の術なり。誠に家伝秘蔵の宝なり。

秘すべし、秘すべし

 

宝暦五年秋九月下旬  慈雲斎 牛田権三郎

 

第一章 米相場の特徴

   ・春上げと見て買い上げる冬の米 春はなかなか高くなるまじ
   ・春下げと見て値の安き冬の米 春はなかなか安くなるまじ
   ・古米少なく強変が出て高米は から腹下がりの年と知るべし
   ・古米多く豊年と見る安米は から腹上がりの年と知るべし
   ・すわりには売り転変に買い転変 徳を逃がすな半扱安楽
   ・年明けて 春から五月高米は 水無月文月下がる年なり
   ・年明けて 春から五月安米は 水無月文月上がる年なり

第二章 仕掛け法

   ・変乗の年は から腹下がりなり 秋名月に売りの種まけ
   ・秋の米 から腹上がり待ち受けて 二割上がらば売りの種まけ
   ・米崩れ 買い落城の飛び下げば ただ目をふさぎ買いの種まけ
   ・米枯れに 売り落城の飛び上げは たわけになりて売りの種まけ
   ・秋安く人気も弱く 我もまた売りたきときは 米の買い旬
   ・いつにても 三割下げは米崩れ 万天元の買い旬と知れ
   ・五月米 人気弱くて値は上がる 四月下旬に買いの種まけ
   ・洪水と大風吹きの飛び上がりは あほうになりて はたの種まけ
   ・万人が心に迷う米なれば つれなき道へおもむくがよし
   ・いつにても二割上げては九分一分 千天元の売り旬と知れ
   ・売り買いは五分高下にてならすべし 乗せも同じく五分高下なり

第三章 相場に向かう心得

   ・朝虹は大雨降りと兼ねて知れ 夕日の虹は日和なりけり
   ・立雲に赤味混じりは風と知れ 白き黒きは雨と知るべし
   ・八専のいる日に小雨降り出だせば あくまで降るとかねて知るべし
   ・あいた日にまた降り出だせば十二日 八専がえり降るというなり
   ・懐に金を絶やさぬ覚悟せよ 金は米釣る餌ばと知るべし
   ・売り買いは戦の備えも同じこと 米商いの軍兵は金
   ・備えなき商いならばいつにても 損得なしに商い禁制
   ・千人が千人ながら強気なら 下るべき理を含む米なり
   ・万人が万人ながら弱気なら 上るべき理を含む米なり
   ・利徳多く常に一心安らかな 福徳円満 安楽商いと知れ
   ・常弱気 損得知らぬ大たわけ 貧乏神の氏子なるらむ
   ・買い米を一度に買うは無分別 二度に買うべし 二度に売るべし
   ・売り買いに徳の乗りたる商いは 半扱商いのすくい場と知れ
   ・百年に九十九年の高安は 三割超えぬものと知るべし

第四章 相場三徳 ~智~

   ・高きをばせかず急がず待つは仁 向かうは勇 利乗せるは智の徳
   ・高下とも五分一割は乗せがよし 中墨すぎて乗せは馬鹿なり
   ・せくゆえに安きを売りてあたまから 高きを買うてからうすをふむ
   ・三平も二平もいらぬ安値段 せかずに待つが大秘密なり
   ・待つは仁 向かうは勇 利乗るは智 半扱商いの妙術と知れ
   ・高下とも長き足には乗せがよし 短か足には乗せざるがよし

第五章 相場三徳 ~仁~

   ・下がる理も時至らねば下がるまじ 売りぜきするは大たわけなり
   ・ただせくな せく商いに徳はなし 五分安を買い五分高を売れ
   ・売り買いをせけばせくほど損をする とんと休んで手をかえて見よ
   ・買いぜきをせぬが強気の秘密なり いつでも安き日を待って買え
   ・万人があきれはてたる値が出れば それが高下の境なりけり
   ・上がる理も時節が来ねば上がらぬぞ せき買いをして悔やむまじきぞ
   ・上がる理も時至らねば上がるまじ 理を非に曲げて米にしたがえ
   ・くだるほどくだれば弱気の気もつきて 上がるところが天性と知れ
   ・風吹かぬ二百二十日の安値段 定式として待ち受けて買え
   ・上がるべき気がつきぬればおのづから 下るところが天性と知れ

第六章 相場三徳 ~勇~

   ・万人が万人ながら強気なら たわけになりて米を売るべし
   ・分別も思案もいらぬ買い旬は 人の捨てたる米崩れなり
   ・上がる理と皆人ごとに極めたる 大ざやものに はたの種まけ
   ・下がる理と皆人ごとに極めたる 大下ざやに買いの種まけ
   ・高下とも一割五分の大ざやは いつでも米に向かう理と知れ
   ・三割の高下に徳は転変し 損はならすが秘密なりけり
   ・米安く人気の弱き日は買って 人気の強き高き日は売る
   ・飛び下げはいつでも米に向かうべし 飛び上げならば米にしたがえ
   ・野も山も皆一面に弱気なら あほうになって米を買うべし
   ・向かう理は高きを売りて安きを買う 米商いの大秘密なり
   ・いつとても買い落城の弱峠 怖いところを買うが極意ぞ
   ・いつとても売り落城の高峠 怖いところを売るが極意ぞ

第七章 陰陽道と相場

   ・高安の理は空理にて眼に見えず 影も形もなき物が体
   ・理と非との中にこもれる理外の理 米の高下の源と知れ